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【古性のちの世界の覗き方 #7】-例えばタイ・バンコクの話-

古性 のち

どこか懐かしくて、ホッとする。目が合うと、思わず微笑んでしまうような。「何だか初めて会った気がしないんですよね」なんてナンパな台詞を思わずぶつけてしまいたくなるような相手と出くわす時がある。私にとって、バンコクはそんな「心がゆるりと解けてしまう」ような場所だ。
 
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この街と初めて出会ったのは2年前、世界一周の2カ国目だった。初めての海外、フィリピン島での1ヶ月の生活を終えて踏み入れたこの街は「野犬が沢山いるらしいよ」だとか「屋台で友達がお腹壊したらしいよ」だとかの前情報から完成した「THE発展途上国」の脳内イメージのはるか斜め上を超え、あまりの都会っぷりにぽかんと口を開けてしまう。

いわゆる“タイらしい”景色ももちろん残っているけれど、それは日常に紛れているわけではなく、もはや探しに行かねば出会えない。写真を並べて「さあどちらが日本でしょう?」と聞かれたら、しばらく首を傾げてしまうくらいに、そこは「ちょっと言葉が通じないだけの日本」だった。

 
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BTSと呼ばれる電車に揺られながら、ずっと構えていた体の力が抜けていく。前に抱えるように持っていた鞄も、数日後には後ろ向きになっていたし、夜20時の帰宅時間は徐々に伸び、深夜ふらり散歩に出かける日もあった。そうやってゆっくり、「海外」という場所を見知らぬ異国から「暮らす場所」として目線を変えてくれたのがバンコクだった。

 
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「カメラ、危ないからちゃんと前で持ちな。バイクにひったくられちゃうよ」夢中でシャッターを切る私に、カタコトの英語で警備員が話しかけてくる。「出身はどこ?大阪?東京?横浜?僕の友達が東京に住んでいます。コンニチハー、アリガトウ」。ニコニコ笑いながら話しかけてくる彼の横で、ごろりお腹を無防備に見せた犬が寝返りを打つ。チリンチリン、と涼しげな鈴の音を鳴らしながら、大きな麦わら帽子をかぶったアイス売りのおばちゃんが、その前を、のんびりと横切っていった。その様子に、私はもう一度シャッターを下ろす。特別な観光地でもない、何かドラマチックな出来事が起きているわけでもないこの風景を、そのまま切り取って、閉じ込めたくなったからだ。

 
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その後も2度、3度と何か理由をつけては私はバンコクに足を運んだ。その度にどんどん距離が近くなって、「何かバンコクって、海外っていうより他県、って感じの距離感なんだよね」なんて生意気な事を言うようになった頃、わたしはこの地を「旅する場所」ではなく「暮らす場所」として形を変える事にした。
「バンコクでなければだめなのか」と聞かれたら、そんな事はないし「何が住むきっかけだったの?」と聞かれても、首を傾げてしまう。そこには特別な理由なんか何ひとつなくて、久々に会った懐かしい友に「まあ、たまにはゆっくりしていきなよ」と呼び止められ、急ぐ必要もないし、まあゆっくりしていく事にした。みたいな感覚なのだ。そんな場所なのだ、ここバンコクという国は。優しく、懐かしく、知らないうちに、旅と暮らしの境目を限りなく薄くしてしまう、なんとも困った街なのだ。

 
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いつまでここにいるの?と聞かれると答えは持ち合わせていないのだけれど、それでも、この国は私の呼吸を深く、リズミカルに、体の隅々まで酸素を行き届かせてくれる。だからきっと、どんな形であれ「必要」な場所なのだろう。
この通りとっても贔屓しているから「初めての海外でオススメは?」だなんて聞かれた日には「バンコクでしょ」と間髪入れずに答える。(本当は台湾もオススメだと思ってる。でもやっぱりバンコクなんだよ)。だけれど注意してほしい。この国は、知れば知るほどたっぷりの魅力で、知らないうちに引きずり込まれている。きっと私だけではないはずだ。だから何度も何度も帰ってくる旅人が、こんなにも後をたたないのだろう。

 
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もし少しだけ、今いる場所よりほんの少しだけ遠くに行きたくなって。でも、現実はあまりにも遠くは怖くて。安心して、ホッとして、包み込んでくれる場所を心が欲する時がきたら。この場所に足を運んでみてほしい。大丈夫、日本からも日帰りできる(頑張れば)。金曜日の夜に旅立って、日曜に帰ることだってできる。
ここは、限りなく日本に似ている、だけれど全く違う。心をゆるりと解いてくれる街だ。

古性 のちNOCHI KOSYO

Department
ビジネスプロモーション本部
Position
ライター

「旅、ときどき仕事」運営 / フリーライターの旅人✈︎ / 1989年生まれ。美容師→デザイナー→ライターと転職しました。17カ国まわって日本に帰国。今年念願の温泉ソムリエになりました。好きなお風呂は直島のあいらぶ湯。基本ふわふわと日本・世界を漂う生活を送っています。

Twitter - https://twitter.com/nocci_84
Blog - http://noccheese.hatenablog.com/

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